2000年

 

<風響社通信 No.1> 2000年1月1日


 新年そして新千年、おめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。


 今年から「風響社通信」と銘打って、新刊のご案内やその他の情報をメールでお知らせすることといたしました。一応、月刊を目指しますが、めぼしいお知らせがない場合は休刊といたします。


 なお、こんなメールは必要ないと思われる方は、大変お手数ですが、不要の旨ご一報下さいますようお願い申し上げます。



1,新刊・近刊のご案内


 ◎『台湾原住民研究』4号を刊行しました(本体2000円)。12月25日発行のため、流通に回るのは1月になってからです。論文・ノートの他、「特報・台湾大地震」「バークレーおよび台北での国際学術大会報告」などを掲載しております。


 ◎『神話・宗教・巫俗──日韓比較文化の試み』(崔吉城・日向一雅編、5000円)は1月15日頃刊行予定。

 ◎『台湾漢民族の姻戚』(植野弘子著、7400円)は2月末予定。

 ◎『日本統治下ミクロネシア文献目録』(山口洋児編、8000円)は3月予定。

 ◎『植民地人類学の現在』(中生勝美編)は4月予定。



2,オン・デマンド出版実験室の開設について

 

 注文に応じて、1冊単位で印刷・製本できる技術をもとに、オン・デマンド出版の動きが出ております。小社でもこれらの技術を少部数出版に応用できないかと実験を開始することにしました。



3,書評紹介ページについて


 杉島敬志編『土地所有の政治史』の書評を皮切りに、新刊・旧刊の書評を随時転載・掲載していきます。



4,ベトナム映画が面白い


 昨年の第3回アジア・フィルム・フェスティバルでは「サイゴンからの旅人」「ロイテ──誓い」が紹介され、春には「ナイフ」を加えた3本がシブヤ・シネマ・ソサエティで公開、さらに Bunkamura ル・シネマの正月ロードショーでは「季節の中で」が上映と、ここにきてベトナム映画が旬を迎えようとしています。


 台湾映画のようにじわじわいくか、中国映画のように一気にブレイクするか、予測はつきませんが、着実に関心を集めているのは確かなようです。


上記3本は、ベトナム映画上映実行委員会の下記サイトに詳細があります。


 http://www.asia-movie.com


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 ホームページを運用しはじめて4ヶ月ほどとなりました。その間、独自ドメインへの移転、台湾大地震への対応、時折のバージョンアップなど、なんとか最低限のケアだけは努めてきました。


 何しろ最少のスタッフですから、昨年後半の本づくりに若干影響があったことは否定できません。(ご迷惑をおかけした著者の皆さんご免なさい。)


 ただ、今後の出版=パブリッシュというものを考えると、ここらで流れを作っておく必要があったのだと考えています。


 今のところ、紙の本と同様、サイレントな読者が多いのですが、それぞれに受け止めて下さっているという感触はあります。


 ネットの双方向性を生かすために、こんな通信も考えてみました。ご迷惑にならなければ幸いです。


 Y2Kも元日は大過なく終わりそうで、お屠蘇を頂きながらパソコンに向かってます。明日からは新年会が続き、しばらく仕事になりません。


 今年も愛機と肝臓が機嫌良く働いてくれることを祈念しつつ。


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<風響社通信 No.2> 2000年3月29日


 第2号をお届けします。        



1,新刊・近刊のご案内


◎『神話・宗教・巫俗──日韓比較文化の試み』(崔吉城・日向一雅編、5000円)は1月15日刊行いたしました。

◎『台湾漢民族の姻戚』(植野弘子著、7400円)は3月10日刊行いたしました。


◎『日本統治下ミクロネシア文献目録』(山口洋児編、8000円)は4月末予定。

◎『植民地人類学の現在』(中生勝美編)は5月予定。



2,新着情報


●「フィールドから」に新エッセイ登場。小社刊『中国北方農村の口承文化』の著者井口淳子氏による「個人調査と共同調査を比べてみれば―中国大陸の場合」。


●小社刊『台湾民間信仰研究文献目録』が編者の三尾裕子氏のHPで、オンライン・データベースとして公開されました。



3,オン・デマンド出版続報


 2大取次と2大印刷がそれぞれ提携してオン・デマンド出版のサービスを始め、版元でもさまざまな動きが出始めました。村上龍・小松左京の作品「切り売り」の試みや、関西学院大学出版会の学位論文出版サービスなど、興味深いものもあります。



4,ベトナム映画いよいよ封切り


●「新しい光と風 ベトナム映画」上映作品

 「ナイフ」「サイゴンからの旅人」「ロイテ -誓い-」<各回完全入替制>

  2000年4月1日よりシブヤ・シネマ・ソサエティにて公開


●上映スケジュール

 4月1日(土)〜4月7日(金):「ナイフ」

 4月8日(土)〜4月14日(金):「サイゴンからの旅人」

 4月15日(土)〜4月21日(金):「ロイテ -誓い-」

 4月22日(土)〜5月5日(金):三作品併映


上記3本は、ベトナム映画上映実行委員会の下記サイトに詳細があります。


 http://www.asia-movie.com


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 出版助成の締め切りに向けた作業や年度末のさまざまな雑用もあり、やはり月刊は無理でした。

 

 2000年は政治の年、台湾総統選挙、ロシア大統領選挙と、21世紀初頭の国際政治を担う顔ぶれが次々と確定してきており、アメリカ大統領選挙が終わるまで、目が離せません。


 日本の総選挙の争点は一向に見えてきませんが、否応なくゲームの席に着くわけですから、デザインのある政策をもって争ってほしいものです。


 などと、もっともらしいご高説をぶってはみる小社でありますが、見通しの悪さは平均的日本企業、目前の業務に追われているのが現実です。


 最近、カエサルの『ガリア戦記』など古代ローマ物を少し読んでいますが、パクス・ロマーナの時代がパクス・アメリカーナの今日とよく似ているのに驚きます。


 生活・生産の万般を支えていた奴隷たちの存在はさしずめITツールでしょうか。ひとたび反乱が起きれば、社会全体が麻痺してしまうわけですから、依存構造は考えさせられます。

 

 机と電話だけで開業できた出版業も、いまやパソコンとインターネットです。電子の世界もそれなりに美しいのですが、手ずから物を創り出せる仕事が妙に羨ましいこのごろです。


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<風響社通信 No.3> 2000年7月1日


 第3号をお届けします。



1,新刊・近刊のご案内


 ◎『自治体の文化政策──21世紀の地域文化戦略』(梶 亨著、1905円)は5月15日刊行いたしました。

 ◎『日本の家族における親と娘──日本海沿岸地域における調査研究』(植野弘子・蓼沼康子編、1500円)は6月10日刊行いたしました。


 ◎『植民地人類学の現在』(中生勝美編)は7月予定。

 ◎『日本統治下ミクロネシア文献目録』(山口洋児編、8000円)は8月予定。

 ◎『カンボジアの農民──自然・社会・文化』(J・デルヴェール著/石澤良昭監修・及川浩吉訳、1万5000円)は9月末予定。



2,新着情報


●小社HPに新しいページ登場。


 一つは、「論著・研究掲示板」という名称で、ご自身の最新の研究内容を自由にご紹介いただこうというものです。紀要や学会誌に発表した論文の情報、最新の著作、あるいはHPのアップなど、学術的なものならなんでも結構です。どんどん書き込んでください。


 もう一つは、「目録ダウンロード」という名称で、小社の出版目録および、新刊・近刊のパンフレットがダウンロードできるページです。アクロバットのpdfファイル形式ですので、マックでもウィンドウズでも軽快です。書店に注文される場合など、パンフレットがあれば便利ですね。


●日本書籍協会・図書館流通センターのHPの書籍データベースと、小社のHPがデータリンクされました。それぞれの検索画面から、小社のHPの書籍紹介頁に直接飛んできますから、詳細かつ最新の情報が読者に提供されることになります。



3,オン・デマンド出版続報


 6月の新刊『日本の家族における親と娘』は、オン・デマンド印刷の技術を使った小社では初めての書籍です。編者の了解のもと、「実験」的に使ってみましたが、仕上がりは通常のオフセット印刷とほとんど変わりありません。細かな問題点もありますが、少部数の出版には強力な製作手段であることは確認できました。


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】


 最近の「恨ミシュラン?!」と言いますと、

 

 「花火降る夏」(フルーツ・チャン監督、サム・リー他、香港映画)

 「風が吹くまま」(アッバス・キアロスタミ監督、ベーザード・ドータニー他、イラン映画)

 「マンハッタン・ジャズ・オーケストラ」……

 

を見逃してしまったことです。いずれも文句なく楽しめる演し物ですが、行こうと思っているうちに機会を失っています。「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」「太陽はぼくの瞳」「ぴあ・フィルムフェスティバル」など、まだ間に合うものもいくつかありますが、どうなることやら。……。


 ということで、HPもひさびさの更新をしました。3ヶ月ぶりというのは怠慢の新記録です。その間にご案内もしない新刊が2点も出て、既報の新刊は見事に滞って、小社の世紀末は大変な追い込まれようとなってしまっています。


 それにしても、われらがアジアは素晴らしい追い込みですね。台湾総統選挙・朝鮮半島の南北首脳会談と立て続けにビッグイベント。日本の総選挙は守旧派の総占拠で、地の神もお怒りのご様子ですが、やがて歴史に引きずり回される日も近いのかもしれません。


 山のような宿題を抱えながらずるずる先延ばしにしているあたり、子供の頃の夏休み終盤のようで、国民としても怖いものがあります。少なくとも小社は宿題を片づけなくっちゃ、いけませんね。


 夏休みといえば、人類学者を相手にしている商売は、かなりこのシーズンにわくわくするものがあります。つまり、皆さんが一斉に調査に旅立たれるため、風響社のある田端界隈はバカンスのパリから日本人観光客を引いたような静けさとなるからです。(ついでに売り上げも引き潮の如くですが、それはさておき)


 冷房の効いた静かな事務所で、溜まった仕事を片づけながら、気が向いた時には、一番暑そうな調査地の先生方の奮闘ぶりを想像しつつ、昼間から缶ビールなど開けてしまう、そんな瞬間がたまりません。


 こんなことを言うと、宿題が増やされそうなのも、何か子供の頃と同じですが、夏休みはやはり非日常的な時間帯ということでしょうか。


 社長のささやかな休暇としては、『ガリア戦記』を読んでいる仲間と、日本のガリアを蝦夷に見立てて、多賀城跡や厨川柵跡などを訪ねる予定です。時代は前九年の役あたり、源頼義がカエサル、こうなると日本の歴史も捨てたものではありませんね。


 では、皆様。よきバカンスを! よきご調査を! 日本に留まってらっしゃる方は、小社にでもお出かけ下さい。冷たい缶ビールとタローがお待ちいたしております。


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<風響社通信 No.4> 2000年10月18日


 第4号をお届けします。



1,新刊・近刊のご案内


 ◎『植民地人類学の展望』(中生勝美編、2500円)は8月15日刊行いたしました。

 ◎『日本統治下ミクロネシア文献目録』(山口洋児編、8000円)は9月30日刊行いたしました。


 ◎『訳注 明史刑法志』(野口鐵郎編)は11月予定。

 ◎『〈血縁〉の再構築──東アジアにおける父系出自と同姓結合』(吉原和男・鈴木正崇・末成道男編、3500円)は11月予定。

 ◎『身体と形象──ミクロネシア伝承世界の民族誌的研究』(河合利光著、8400円)は12月予定。

 ◎『日本華僑における伝統の再編とエスニシティ』(王維著、7000円)は12月予定。


 ◎『カンボジアの農民──自然・社会・文化』(J・デルヴェール著/石澤良昭監修・及川浩吉訳、1万5000円)は最終段階で遅れが出て、来春早々の予定です。予約を多数頂いており、大変恐縮ですが、今しばらくお待ち下さい。



2,新着情報


●風響社オンデマンド(FOD)の出発。


 もはや絶滅寸前の希少種となった少部数の学術出版に新たなエンパワーメントとなりうるか。研究・実験を続けているオンデマンド技術を利用して、ジャンル横断的なシリーズ・風響社オンデマンド(FOD)が出発しました。

 並製(ペーパーバック)のみのオンデマンド出版に、函・カバーをつけ、耐久性・保存性・質感を高めた、造本形態がFODの特長です。

 

●創業10周年記念セールのお知らせ。


 2001年1月16日をもって、小社も創業10周年を迎えます。これを記念して、風響社通信の読者の皆様に限り、全点2割引きの特別優待販売を行うことといたします。

 期間中(明年1月末まで)に、メールにてお申し込み下されば、公費・私費を問わず、優待価格でお送りいたします。

 なお、ご注文メールには必ず「記念セールへの注文」の一文を書き添えてください。



3,オン・デマンド出版続報


 9月の新刊『日本統治下ミクロネシア文献目録』は、オン・デマンド印刷の技術を使った小社第2弾の書籍です。少部数しか見込めず製作費の早期回収も困難な企画に、オンデマンド出版は有効な手段ではありますが、上製本に対応していないため学術出版に要求される保存性や上質感に欠ける憾みがありました。

 今回とりいれた風響社オンデマンド(FOD)スタイルは、そうした欠点を埋める一つの試みです。今後、小社の刊行物の中にFODスタイルが増えていくかと思いますが、進展を見守っていただきたいと存じます。


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 夏が過ぎオリンピックも終わったというのに、読書の秋は戻ってこないようです。先日の新聞にCDの売上減の原因が携帯電話にあると出ていました。通話料金がiモードなど目新しいサービスの普及で増加し、そのしわ寄せがCDに来たというのです。学術出版に置き換えますと、書籍売上の減少はITにあり、ということになりそうです。大学の研究図書費や補助金の中でパソコンやソフトに向けられる割合が高まり、書籍購入費にしわ寄せが来ているという分析です。

 

 これは情報メディアにおける(紙の)出版の意味を考える上でも示唆的です。IT出版(インターネット・電子出版)が、従来の紙の出版と決定的に異なるのは、製作費削減という製造者サイドの問題だけでなく、出版の主体がより著作者に近づいたことです。誰もがパブリッシャーとなれる時代の到来というわけです。


 それは、情報とパブリッシュの間に横たわっていたブラックボックス=出版・印刷・流通複合体や、岩波的権威・講談社的権威にたじろぐことなく、自らの情報を読者に伝えることができる時代ということです。整理すれば、


 従来型=物神的・権威的・恒久的なページ

 IT型=非価値論的・流動的なページ


であり、城郭建築というハードの時代から楽市・楽座というソフトの時代へ変化したこと、になるでしょうか。


 とはいいましても、新しい時代を享受するにはそれなりの負担もあります。読者のこのところの行動はIT型情報の増大に関連して、その受信装置を整える時期にある、つまり送受信のインフラ整備の先行投資の時期と分析できるのだと思います。

 

 紙の出版が消滅してしまうことはないにしても、IT出版の増大に応じてそのシェアは減少していくでしょう。21世紀初頭は低落していく従来型出版と、勃興するIT出版の主役交替の時期であり、それは産業の部分だけでなく、文明史的交替でもあろうことは、おそらく間違いないように思われます。

 

 それを生業としている小社には「困難な」時代ではありますが、だれよりも自由な「出版」活動がしたいと思い、DTPやITに先進的に取り組んできたわけですから、「待望の」時代でもあります。

 

 10周年にあたりましては、あらためてご挨拶を申し上げますが、「紙神のたそがれ」を目の当たりにした雑感を一言述べさせて頂きます。