2002年

 

<風響社通信 No.8> 2002年1月5日


 皆様、新年明けましておめでとうございます。久々の風響社通信第8号をお届けします。


 電子賀状を下さった方にはこのメールでご返事とさせていただきたく存じます。有難うございました。


【初めて受信された方へ】

 一昨年から「風響社通信」と銘打って、新刊のご案内やその他の情報をメールでお知らせしております。一応、月刊を目指しますが、めぼしいお知らせがない場合は休刊といたします。

 送信の対象は、仕事やネットで出会った方々、そして送信を希望された読者の方々とさせて頂いております。

 なお、こんなメールは必要ないと思われる方には、誠に申し訳ございませんでした。大変お手数ですが、不要の旨ご一報下さいますようお願い申し上げます。




1,新刊・近刊のご案内


 ◎『道教関係文献総覧』(石田憲司主編、1万2000円)は1月下旬予定。

 ◎『明代中国の疑獄事件 藍玉の獄と連座の人々』(川越泰博著、3000円)は1月末予定。

 ◎『現代東南中国の漢族社会 ビン南農村の宗族組織とその変容』(潘宏立著、7400円)は2月下旬予定。

 ◎『河辺の詩 バングラデシュの村の物語』(K・ガードナー著・田中典子訳、価格未定)は3月末予定。


 ◎『カンボジアの農民──自然・社会・文化』(J・デルヴェール著/石澤良昭監修・及川浩吉訳、1万5000円)は最終段階で遅れが出ております。予約を多数頂いており、大変恐縮ですが、今しばらくお待ち下さい。


 なお、1月13日の朝日新聞読書欄下に小社広告が掲載されますので、ご参照下さい。



2,2001年の刊行物 


 ◎『訳注 明史刑法志』(野口鐵郎編訳、1万2000円)

 ◎『身体と形象 ミクロネシア伝承世界の民族誌的研究』(河合利光著、8000円)

 ◎『日本華僑における伝統の再編とエスニシティ 祭祀と芸能を中心に』(王維著、7000円)

 ◎『両班 変容する韓国社会の文化人類学的研究』(岡田浩樹著、6000円)

 ◎『台湾原住民研究概覧』(日本順益台湾原住民研究会編、8800円)

 ◎『ベトナムの社会と文化 2号』(ベトナム社会文化研究会、3500円)

 ◎『台湾原住民研究 5号』(日本順益台湾原住民研究会編、2000円)

 ◎『アジア移民のエスニシティと宗教』(吉原和男/クネヒト・ペトロ編、5000円)

 ◎『東アジアにおける文化の多中心性』(三尾裕子・本田洋編、3000円)★

 ◎『カストム・メレシン オセアニア民間医療の人類学的研究』(白川千尋著、6000円)★

 ◎『風水の社会人類学 中国とその周辺比較』(渡邊欣雄著、8000円)


 なお、★印はオンデマンド印刷によるもの。『カストム・メレシン』は、並製・函入りというFOD(風響社オンデマンド)スタイルの2冊目です。頁数が少なかったため、函の厚みが出ず、小社周辺では「詩集のような」という形容をしています。



3,増える取り扱い雑誌


 小社取り扱い雑誌は「台湾原住民研究」「ベトナムの社会と文化」(製作・発行)、「ふぃるど」(発売)でしたが、今年から「比較日本文化研究」(製作・発売)、「韓国・朝鮮文化研究」(仮題、製作・発売)が加わります。


 図らずも台湾・ベトナム・韓国・朝鮮そして日本と、中国周辺地域を対象とする研究誌が揃うこととなりました。小社の主題の一つ、巨大文明と周辺文化の関係を、中華文明周辺のそれぞれの地域から見ることができる意味で、個人的には楽しく担当させていただいております。


 ただ、いずれも財政状態が厳しい研究会ですので、時間・経費の面では楽な仕事ではありません。会員や読者の皆様のご助力を得ながらなんとか持続していきたいと思っております。


 また、これ以上の新規雑誌の取り扱いにつきましては、発売元はお引き受けできますが、製作までとなると手もアシも足りませんので、当分は困難です。もちろん、潤沢な資金がある場合は大歓迎ですし、創刊や販売のご相談にはいつでも対応いたしますので、ご連絡下さい。



4,激動する韓国の出版流通・続報 


 前号でお伝えした韓国の出版事情ですが、取引関係の情報誌で以下のような現況紹介がありました。(以下引用)


 韓国は1997年のアジア経済危機からIMF(国際通貨基金)の管理に入り、70の中小取次が倒産、出版社の6割強が日本円で平均740万の被害を被り、政府が出版社に50億円の緊急支援をし、再建・再編に入り、今年は4年目になります。韓国最大の取次店の社員の初任給が高校卒で7万円、大学卒で8万円という水準での被害数字です。1998年と200年を比較すると新刊の発行点数は5%しか減少していませんが、平均発行部数は41%も減少し、かつての水準に戻るのは当面困難な模様です。また書店の数もこの2年で1000店減少しています。


 反面、日本と同じように大規模書店は続々開店という現象も続いています。全人口の半分の2200万人がインターネットを利用する韓国では、再販制度を守ろうとするリアル書店に対し、100余社のインターネット書店が出現、ベストセラーは最高50%引きまでされるのもあります。対抗上、再販制を守る大書店の老舗「教保文庫」でさえ時限的には、ベストセラー300点に対して30%の特別割引きを行わざるをえず、インターネットの急速な発達は韓国の再販制を形骸化しつつあります。

 

 ちなみにインターネット販売の全書籍流通量の中の各国別の比率は、日本1%、ドイツ2%、アメリカ7%、韓国10%で、韓国は世界トップです。また、取次流通より書店─出版社間の直接取引が50%以上を占めることが、現金をたたきつける取引による仕入れダンピングを可能にしています。


 こんな混乱の中でも韓国の書店は日本の数倍の活気があります。それは経済が回復しはじめ、民主化の流れ、日本文化の開放や国際化の急激な進展により、浸透していなかった外国の知的資産が続々と翻訳出版され、ベストセラーにもこの種の本が多く顔を出しています。読書人口、教育人口の拡大が当分続くので、出版市場も拡大してゆくのは間違いありません。日本の培ったソフトの版権売買の相手として期待できる国になりつつあります。


(以上は、地方・小出版流通センターの情報誌「アクセス」2001年8月号掲載の白源根・韓国出版研究所研究課長による「激動する韓国の出版流通」を要約した、センター代表・川上賢一氏の「センター通信」299号のレポートの抜粋です。)


 これとは別に、小社発行『両班』の著者・岡田浩樹氏が、昨年夏に韓国を訪れ、取材した報告を整理中とのことですので、いずれ「フィールドから」に寄稿していただけるものと思います。


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 韓国の出版状況をお伝えしましたが、台湾でも、戒厳令解除を契機として急激な出版物の増加や「台湾化」があり、現在に至っています。関係者から漏れ聞く、たとえば冷戦後のロシアの状況、最近のタイやインドネシアの状況などからも、各国の事情はそれぞれ異なりますが、出版物が持つ「思想性」「商品性」と政治・経済状況が織りなす複雑な模様を再確認させられる思いです。


 IT時代に入り、わたしたちは複製コストおよび情報伝達コストの激減という、未知の世界に突入しています。これは、本や雑誌やCDを「買う物」から「作る物」に変えてしまい、出版社などというものを前世紀の遺物と化しつつあります。学界と出版界が築いてきた既得権や「権威性」というものも、アナーキーなネット世代によって根底から突き崩されようとしているのかもしれません。


 このアナーキーな世界、モニターの奥に広がる広大無辺な世界はコストゼロの新天地です。まるで摩擦係数がゼロのようなこの世界は、誰もがイチローのように真っ直ぐ遠くに投げることができますが、スケートの清水のように鋭くコーナーを曲がることはできません。


 若い世代、若い国にとって、こうした世界は少々ぶつかって傷を負っても限りない可能性を与えてくれる場なのでしょう。古い世代、古い国に属することとなってしまった小社にとって、スケートリンクの壁の華となるのか、ころんでもよたよたと滑り続けるのか、そろそろ観客席にリタイアするのか、考えさせられる状況です。


 同時多発テロとその後の状況については申し上げる言葉もありませんが、IT化とグローバリゼーションの突き進むところ、負け組に属する個や小は「非対称」の立場を利点とするしか活路はないのでしょう。ただ、同じ負け組ではあっても、小社はなんとか人の「痛み」を理解できるよう「正気」と「身体感覚」を保つように努めたいと念じるばかりです。


 さて、新年ですから気を取り直して申し上げましょう。おかげさまで昨年は上記のように新刊11点を刊行することができ、小社の年間発行点数の記録を更新しました。組版・編集・校正を社内(一人)でこなす現在の方式ですと、年間制作点数は24点(月2点)が限度と思われますが、これはあくまで理論値です。


 原稿は完全で期限通りに入り、校正にも波乱が起きず、営業その他でイレギュラーな用件が生じない、という工程管理された工場のような条件と、刊行した書籍が予測通り売れて資金繰りがスムースである、という出版現場では到底ありえない条件がそろわないと、このような数字は達成できません。


 それでも昨年前半は、理論値に近い制作をこなしましたが、後半は新倉庫の整理に時間をとられたり前半の無理がたたって減速、本来なら刊行できていたいくつかの原稿・ゲラを持ち越してしまいました。ご迷惑をおかけした関係者には深くお詫びを申し上げます。


 今年は昨年の轍を踏まないぞ、との意気込みではおりますが、予定点数はすでに十数点、小社も待ったなしの構造改革を迫られている次第です。ただ、予定した点数のうち、原稿が揃っているものはまだ少なく、人類学者のようにすぐに長期海外出張が入る著者とチームを組んでいますと、予定表は未定表のごとくです。小社も小社で、面白い話にはすぐ乗ってしまうため、工程管理などほとんど不可能のように思えてきます。


 構造改革といっても手は限られています(リストラするにも社員はいない!)。人手を増やすか、仕事を減らすか、能率を上げるかしかないのですが、前二者は出版不況の折から困難です。残るは能率向上、老骨と老電脳に鞭打って頑張るしかない……、えっ、これではかけ声だけの本家構造改革と変わらないですね。


 ということで今年もご迷惑をかけたり、たまには迷惑を被ったりしながら、絶え間ない予定表の更新に明け暮れる一年となりそうです。けしてサボっているわけではありませんので、どうかお見捨てなく、よろしくお願い申し上げます。


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