2003年

 

<風響社通信 No.9> 2003年1月1日


 第9号をお届けしますとともに、新春のご挨拶を申し上げます。また、長らくのご無沙汰をお詫び申し上げます。



1,新刊・近刊のご案内


 ◎『道教関係文献総覧』(石田憲司主編、1万2000円)は1月下旬刊行いたしました。

 ◎『明代中国の疑獄事件 藍玉の獄と連座の人々』(川越泰博著、3000円)は2月中旬刊行いたしました。

 ◎『現代東南中国の漢族社会 ビン南農村の宗族組織とその変容』(潘宏立著、

7400円)は3月中旬刊行いたしました。

 ◎『河辺の詩 バングラデシュの村の物語』(K・ガードナー著・田中典子訳、2500円)は4月下旬刊行いたしました。

 ◎『台湾原住民研究 第6号』(台湾原住民研究会編、3500円)は6月上旬刊行いたしました。

 ◎『ベトナムの社会と文化 第3号』(台湾原住民研究会編、3500円)は6月上旬刊行いたしました。

 ◎『韓国朝鮮の文化と社会 第1号』(韓国・朝鮮文化研究会編、3500円)は10月下旬刊行いたしました。

 ◎『カンボジアの農民──自然・社会・文化』(J・デルヴェール著/石澤良昭監修・及川浩吉訳、1万5000円)は11月上旬刊行いたしました。

 ◎『ものづくりの人類学──インドネシア・スンバ島の布織る村の生活誌』(田口理恵著、8400円)は12月末刊行いたしました。


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 ◎『ヒンドゥー女神と村落社会──インド・ベンガル地方の宗教民俗誌』(外川昌彦著、1万円)は2月末刊行予定です。


 ◎『比較日本文化研究 第7号』(比較日本文化研究会編、1500円)は、少し遅れて今春刊行予定です。



2,受賞あいつぐ


 ◎2001年末刊行の白川千尋著『カストム・メレシン』が、昨年3月22日・23日に開催された日本オセアニア学会研究大会において、第一回日本オセアニア学会賞を受賞しました。


 本書は総合研究大学院大学の文化科学研究科地域文化学専攻の1997年度博士論文を基としたもので、ヴァヌアツの民間医療と近代医療のあり方を詳細に論じたものです。


 装丁をFOD(風響社オンデマンド)とし、並製・函入だったのですが、選考過程では好意的に受け止められたようです。


 ◎今春刊行予定の『The Excluded Wife(邦訳仮題:カナダの広東女)』(Woon, Yuen-Fong著、池田年穂訳、吉原和男監修)が、カナダ研究プログラム「2001/2002カナダ首相出版賞」を受賞しました。


 本賞は、「カナダおよび日加関係に関する優れた学術研究を顕彰し、日本語によるカナダ関係書籍出版の奨励・支援・促進を目指して、1988年、カナダ政府によって創設された」ものです。


 本書はカナダ人著作品の最優秀日本語訳原稿の部門で受賞しましたが、著者名でお分かりの通り、中国系カナダ人の作品です。広東からカナダに渡った一族の苦闘の物語で、戦前戦後のカナダの移民政策を率直に批判する部分もありますが、そうした著作にも賞を与えるカナダ政府の度量に敬意を表したいと思います。


 現在、翻訳作業が進行しておりますので、お楽しみに。



3,雑誌定価改定について


 以下のような事情から、『台湾原住民研究』6号以降の定価を本体2000円から3500円に改定させて頂きます。


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 『台湾原住民研究』は、1996年5月創刊以来、昨年度第5号まで順益台湾原住民博物館の研究助成を受け発行してきましたが、その完了にともない、6号以降からは寄稿者による定型入稿などによって独立採算の形で継続を試みることになりました。


 現在の学術出版をめぐる厳しい環境の中で、小部数の小誌刊行はまことに困難な事業ですが、個人や図書館での定期購読、個人的なネットワークを通じての関心の増大など、発行部数を少しでも増やすことが継続の力となります。皆様におかれましても、従来にもましてご支援、ご鞭撻をいただければ幸いです。


 なお、会の名称も、「日本順益台湾原住民研究会」を「台湾原住民研究会」と改称し、活動を継続してゆくことにしましたので、あわせてお知らせ申し上げます.


                    台湾原住民研究会の挨拶状より抜粋


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 同様に『ベトナムの社会と文化』も3号からオンデマンド印刷+寄稿者によるひな形にそった入稿方式による製作とし、なんとか採算点を探っていきたいと考えております。


 現状では印刷原価のみでも卸値を上回りかねない「逆ザヤ」的状況です。刊行維持そのものが大変困難な現状を、会員・寄稿者との共同作業により乗り越えたいと思っております。どうか両誌とも継続・新規のご購読をお願い申し上げます。




【後記】

 お健やかに新年をお迎えのことと存じます。昨年は、小社の唯一のスタッフが病に倒れ、社主一人で全ての仕事(プラス家事・看病)を抱えたため、本通信も夏からストップ、それどころか著者・読者・書店の皆さまはじめ、各方面に多大なご迷惑をおかけしました。深くお詫び申し上げます。


 幸い無事退院し、徐々に現場復帰となりましたので、遅れをとりもどすべく、お正月も返上で仕事に励んでいるところです。ゲラなどお待たせしている方々には今しばらくのご猶予をお願いいたします。


 さて、雑事にとり紛れているうちに、気が付いたら平成不況もここに極まれり、といった局面です。ワールドカップ一色から拉致一色と、憂さ晴らし尻馬症候群の世相は、今年はいったいどちらに押し寄せるのでしょうか。


 浮世離れした、と陰口たたかれる「風狂」社ですが、さすがにこの長期不況と無法地帯のような世の中には、うんざり、といったところです。でも、新しい年を迎えてなんとかリフレッシュした気持ちで頑張りたいと思っております。


 出版社というと、古典的なイメージとして、利益を度外視して本造りに打ち込む「良心的」出版社とか、著者ととことん付き合っていい原稿を書かせる編集者「魂」とかあるようで、小社も「良心的」たれ、「魂」を見せろと、過大に期待される場合があります。


 私の経験範囲で言えば、利益を度外視した出版というのは、あり得ません。そんな社はすぐ潰れます。あるとすれば、利益を得るサイクルの長短を組み合わせて、活動を維持発展させる戦略的発想でしょうか。


 武士は食わねど、と言っていられたのは彼らがサラリーマン官僚だったからで、官僚組織を除くどの業界も再生産のサイクルが確立できなければ即座に退場です。利潤を上げるというのは、この再生産の原資を確保することに他ならず、なんら非難されるべき筋合いのものではないと思います。


 著者ととことん、という神話は文芸系編集者と彼やその接待費に乗っかっていた作家の自慢話的回顧録から出ているのかもしれません。それは、文学が売れた時代、編集者が著者に張り付き、顎足をすべて持っても原稿を確保したい、という経営戦略の現れであって、高給を食むサラリーマン編集者が自腹を切って著者を支えたという美談はあまり聞きません。


 ところで、先日の日経新聞にアメリカの独立系出版社に関するコラムが掲載されていました。編集者や出版人が意外と低い給与水準に甘んじていることから、アメリカでも、そのキャリア・学歴に見合う給与よりは、本に関わることに価値を見いだす人がいる、というような趣旨だったかと思います。


 そのタネ本であろう『出版再生 アメリカの出版ビジネスから何が見えるか』(賀川洋著、文化通信社、2001)によると、かの国の平均は以下の通りです。


 ●出版社の年収(パブリッシャーズ・ウィークリーより)単位=USドル


                小出版社  中堅出版社 大手出版社

 編集長             75,223   99,226   103,066

 編集者             45,000   42,833    41,320

 校閲関係者等専門職       40,000   36,000    47,000

 アシスタントクラス       24,283   28,933    28,150

 営業部長            65,150   96,553    94,443

 顧客サービス部門の責任者    43,000   72,750   113,669


 小社から言えば、これでも随分と高給で、さすがアメリカ、とため息がでます。日経コラム子が、これをもって低い水準と言うのは、自らの待遇と引き合わせてのことなのでしょうか。ここにもサラリーマン的安全地帯から、「良心的」であることに価値を置きたがる、安直な見方が顔を出しているようです。


 インディーズの醍醐味が、自らの趣味に基づいて仕事をすることとすれば、小社はそれを目指すべきで、そのためにはインディーズのもう一つの条件、自らの稼ぎのもとに再生産プロセスを作る、ことが必要です。


 上記の表で、むしろ小出版社の給与が大手を上回っている傾向があることは、示唆的です。もし出版という営為が本来小規模経営にふさわしいものであることを示しているとすれば、小社の現状はその経営に問題があることを物語ります。


 その見直しは今後の課題、あるいは永遠の課題となるのかもしれません。


 ともあれ、新年会の季節とはなりましたが、イッキ、イッキとはやし立てるような、「良心的」神話の筋書きにのるとたちまち救急車ということだけは自覚し、ここは、しぶとく浪花商人のように生きてみたいと思います。


 という訳で、今年もどうかよろしくお引き立てのほど、お願い申し上げます。羊が紙を食うというならば、きっと本年は「紙」も「本」も売れるでしょう。よい原稿とともに本がもう少し売れることを期待して、年頭のご挨拶に代えさせていただきます。


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<風響社通信 No.10> 2003年10月5日


 第10号をお届けします。



1,新刊・近刊のご案内


 ◎『ヒンドゥー女神と村落社会 インド・ベンガル地方の宗教民俗誌』(外川昌彦著、1万円)は2月末刊行いたしました。

 ◎『文化のディスプレイ 東北アジア諸社会における博物館、観光、そして民族文化の再編』(瀬川昌久編、2500円)は3月末刊行いたしました。

 ◎『民族の移動と文化の動態 中国周縁地域の歴史と現在』(塚田誠之編、12000円)は3月末刊行いたしました。

 ◎『生寡婦〈グラスウィドウ〉 広東からカナダへ、家族の絆を求めて』(Y・ウーン著・吉原和男監修、池田年穂訳、3500円)は5月上旬刊行いたしました。

 ◎『比較日本文化研究 第7号』(比較日本文化研究会編、1500円)は5月中旬刊行いたしました。

 ◎『日本における華僑華人研究』(游仲勲先生古希記念論文集編集委員会編、8000円)は6月上旬刊行いたしました。

 ◎『台湾原住民研究 第7号』(台湾原住民研究会編、3500円)は8月上旬刊行いたしました。

 ◎『ベトナムの社会と文化 第4号』(台湾原住民研究会編、3500円)は8月上旬刊行いたしました。

 ◎『韓国朝鮮の文化と社会 第1号』(韓国・朝鮮文化研究会編、3500円)は10月下旬刊行いたしました。

 ◎『民族の語りの文法 中国青海省モンゴル族の日常・紛争・教育』(シンジルト著、4000円)は9月上旬刊行いたしました。


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 ◎『モンゴル英雄叙事詩の構造研究』(藤井麻湖著、6000円)は10月刊行予定です。

 ◎『韓国朝鮮の文化と社会 第2号』(韓国・朝鮮文化研究会編、3500円)は10月

下旬刊行予定です。



2,韓国・朝鮮文化研究会の研究大会


 2003年10月25日(土)、東洋大学白山キャンパスにて第三回大会が開かれます。


 詳細は以下のHPをご覧下さい。


http://www007.upp.so-net.ne.jp/askc/taikai.htm


 小社では、大会に合わせて機関誌『韓国朝鮮の文化と社会』第2号を刊行すべく、準備中です。定期購読も受け付けておりますのでご利用下さい。



3,日本華僑華人学会発足


 2003年3月29日、東京・赤坂の日本財団において、「日本華僑華人学会」の設立総会が開催され、会員数約100人で新しい学会が発足しました。


 詳細は以下のHPをご覧下さい。


http://www.am.wakwak.com/~yamakiyo/gakkai.htm


 小社では、初代会長である游仲勲先生の古希記念論文集の刊行を担当したこともあり、設立にも少しだけ関わっております。趣意書などによりますと、


 1984年に長崎華僑研究会、89年に九州華僑華人研究会、1987年に神戸華僑研究会(92年には神戸華僑華人研究会)、1995年に横浜華僑華人研究会と、全国の華僑・華人研究が活発化し、全国的な学会ができないものだろうかという機運が高まり、一部の有志によって設立が提案され、準備が始められたものです。


 新学会は、各地でそれぞれ行われていた研究活動に加えて、全国レベルでの研究交流を図り、それによって日本の華僑・華人研究の発展に貢献するとともに、研究成果を広く世に伝えようとするものです。


 研究者の交流、共同研究の可能性、全国研究大会や各種の研究会・シンポジウムの開催、研究誌(学会誌)や研究書の発行、講演会の開催、内外の関連学会との交流、海外の研究者・組織との交流等々、多くの事業を行いたいと考えています。


 とのことです。


 学際的・国際的な広がりを支える学会として定着・発展していってほしいと念願しております。


 なお、こちらの研究大会は、11月22日(土)に行われます。上記HPをご覧下さい。



4,小社刊行物の翻訳出版


 本年2月、小社99年刊、井口淳子著『中国北方農村の口承文化』が、中国厦門大学出版社より、中国語に翻訳出版されました。


 林《王+奇》訳・朱家駿校訳『中国北方農村的口伝文化』(A5判・並製・237頁)は、定価30元ですが、原書にはない「楽亭大鼓〈青雲剣〉」のCDが付されており、お買い得(!)です。


 小社の書籍では、すでに瀬川昌久著『族譜』(96年刊)が、99年に上海書店出版社から、銭杭訳(A5判・並製・293頁・22元)で出ており、他に『韓国民俗への招待』など数点が中国・台湾・韓国で翻訳出版される予定で作業中です。


 なお、上記と合わせて小社関係の翻訳書3点は、小社でも販売しておりますので、ご利用下さい。(いずれも本通信読者対象の送料・税込み価格です。)


 『族譜』(特価1500円)

 『中国北方農村的口伝文化』(特価2000円)

 『漢族的民俗宗教』(特価1500円)

  ……渡邊欣雄著(原著・第一書房版『漢民族の宗教』91年刊)

    周星訳・天津人民出版社(98年刊・A5判・325頁)


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 地震・雷・火事・津波と天災が続いておりますが、お元気でご活躍のことと存じます。


 昨年からの遅滞のしわ寄せをくぐり抜け、年度末期限の出版物の山を越え、なんとか周回遅れを取り戻すべく、奮闘中ではありますが、遅延を重ねて各方面にご迷惑をおかけしております。申し訳ございません。


 さて、翻訳出版に関連しての感想です。


 インターネットの世界と同様に、学術界も英語圏が覇権を握っており、いくら立派な業績でも英語で発表し、引用されなければ、なかなか真価を発揮できない時代のようです。


 理系ではすでに「権威ある」欧米の学会誌に直接投稿するのが常識とのことですが、人文・社会の分野では、内容以前に修辞が拙劣では評価も低くなりがちですから、一本の論文の英作文でさえ、なかなか困難な仕事となります。


 若い世代には外国で学位を得た人も多くいて頼もしい状況の一方、国内でキャリアアップするには「日本語で」書いたものが必要のようで、原著での文体・修辞を日本語のそれに翻訳するのに、本人であっても相当な苦労をしている例を見ることもあります。


 もちろん、英語一極集中が拡大していく状況に賛成というわけではありません。ただ、批判するにも説得力ある英語の文章が必要なのは、まさに悲喜劇そのものというべきでしょうか。


 ところで、この言語障壁も、われわれ出版業にとっては頼もしい防壁といえます。一億余の人口と高い識字率によって大きなマーケットが確保されている上、低い(?)英語能力のおかげでおびただしい翻訳本をも送り出すことができるのです。


 ハリー・ポッターの大ヒットも、もし皆が原書を手にすれば静山社の出る幕はなかったわけですし、読者が日英バイリンガルであれば、街角の本屋さんの棚の光景ももっと変わっていたことでしょう。


 小社なども、トヨタやソニーのはるか後方で「国際競争力」などというものに汗を流していたかもしれません。もっとも、国内競争力すらない者に、それを求めるのも無理な話ですが。


 一方、資産バブル崩壊の後、今は資格・専門性バブル崩壊の世とのことです。大卒の資格など何の役にも立たないのは久しい事実ですが、たとえば小社のDTP(パソコンを使った編集・組版)という専門技術などもバブル崩壊となっています。


 小社を創業した91年当時、DTP技術を操る出版社はほとんどなく、編集者の多くはパソコンすら持たなかったのですが、今やハード・ソフトの進歩、ファミコン世代の登場もあって、本ぐらい誰でもパソコンで作れる時代となっているのです。


 この情報技術の進歩は、あらゆる旧体制を揺るがせる一方で、例えば翻訳などの専門技術もデスクトップに乗せてくれているので、DTPのアドバンテージを失った小社が多言語出版の能力を得ることも、あながち夢ではありません。


 もっとも、その時代にはユビキタスで多言語間翻訳環境が用意され、ペンギンブックスの頁を指でなぞれば日本文が腕時計型携帯からホログラフで浮かび上がる、ようなことになっているでしょうから、やはり周回遅れなのかもしれません。


 結局、よき出版目録の構築こそが版元存続の鍵という、出版社普遍の真理に戻るしかないようです。風響社の扉はよい原稿にはいつも開かれております。そんなことで、皆さまのより一層のご支援をお願いする次第です。



追伸 昨年の家人の入院以来、社主個人にとって悪いニュースが重なっております。この春はかつて勤めた会社の後輩であり、長年の友人であり、小社の貴重な外部スタッフでもあったI女史を癌で奪われ、先月は父を亡くしました。


 天命を知るべき年齢になったとは言え、未熟なままの自身にとって、大きな示唆を与えてくれる一連の事件ではあります。仕事には当面ブレーキがかかってしまいますが、あらためて人間や生き方のことを考えさせてくれるきっかけにはなりそうです。


 いずれ新生風響社となって、停滞の一年を挽回したいと思っておりますので、いましばらくご辛抱下さいますようお願い申し上げます。


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