2007年

 

<風響社通信 No.16> 2007年1月1日


 通信16号をお届けしますとともに、新年のご挨拶を申し上げます。本年もどうかよろしくお願い致します。



1,新刊のご案内


 ◎『台湾原住民研究 10号』(台湾原住民研究会編、3500円)は6月中旬刊行しました。

 ◎『スポーツをフィールドワークする フィジー』(橋本和也著、500円)は8月下旬刊行しました。

 ◎『比較日本文化研究 10号』(比較日本文化研究会編・刊、1500円)は9月下旬刊行しました。

 ◎『韓国朝鮮の文化と社会 5号』(韓国・朝鮮文化研究会編・刊、3500円)は10月中旬刊行しました。

 ◎『内モンゴル自治区フフホト市シレート・ジョー寺の古文書』(楊海英・雲廣 編、1200円)は12月下旬刊行しました。

 ◎『中国文化人類学リーディングス』(瀬川昌久・西澤治彦編訳、3000円)は12月下旬刊行しました。



2,新シリーズが2点


 ◎『スポーツをフィールドワークする フィジー』は、文化人類学ブックレットシリーズの第1弾です。京都文教大学文化人類学科による入門シリーズ。フィールドワークの魅力を満載。学生や高校生の目線で人類学の本質に迫る。2・3は近刊、第一期=12冊予定、各巻48〜64頁、という内容です。


 ◎『内モンゴル自治区フフホト市シレート・ジョー寺の古文書』は、モンゴル学研究基礎資料シリーズの第1弾です。『Mongolian Culture Studies』の方向性を継承し、質の高い第一次資料の公開を行うシリーズ。北の遊牧民からの視点で既存の文化概念を相対化することをも目指す、というものです。


 ◎今年はさらにもう一つのブックレットシリーズも予定しております。いずれも、斬新かつ挑戦的なラインアップとなりますので、どうぞ新刊・続刊をご期待下さい。



3,近刊予定のご案内


 ◎『〈血縁〉の再構築』の再版(吉原・鈴木・末成編、3000円)

 ◎『中国江南農村の神・鬼・祖先』(銭丹霞著、5000円)

 ◎『タイ山地一神教徒の民族誌』(片岡 樹著、6000円)

 ◎『バタックの宗教』(山本春樹著、5000円)

 ◎『近代客家社会の形成』(飯島典子著、5000円)

 ◎『ベトナムの少数民族定住政策史』(新江利彦著、8400円)

 ◎『モンゴルとイスラーム的中国』(楊海英著、2500円)

 ◎『韓国サーカスの生活誌』(林史樹著、2500円)


 その他、遅れ気味のものも鋭意準備中です。


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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 よき新年をお迎えのことと存じます。本年もどうかよろしくお願いいたします。


 年ごとに月日の経つのが早く感じられます。どなたかの意見では経てきた年月(経験)が分母となって、その上に1年なりの長さを感じるのだから、分母が増えるごとに、体感する1年の長さは短くなるのは当然なのだそうです。


 そう言えば、この経験の総量と新規体験との相対的関係はいろんなことに当てはまりそうです。旅行でも当初の1日は長く感じても、最後の1日はあっという間に終わりますし、1日がかなり長く感じられた少年の頃でも、夏休みの終盤ともなると矢のように過ぎていく経験を何度もしました。もっともこれは私の場合、宿題の総量と残り時間の相対的関係と言わなければならないのですが。


 仕事の上で気をつけなければならないのは、版元や編集者にとって何十冊のうちの1冊であっても、その著者にとっては大事な1冊であることを、いつも忘れないことと思っています。とりわけ最近は小社でデビューされる若手著者も多いので、経験の総量は別の意味で活用しなければなりません。


 ただ、ネット時代の若者の中には、擬似経験によって総量を水増ししている向きもいて、老眼白髪の社主もたじろぐ場面に遭遇します。先だっても就職活動中の学生と話していてどっと疲れました。就職バブルの再来を背景にしてか、内定を次々に反故にしては新たな会社に向かい続けているのですが、結局のところ、ネット情報やら友人・先輩の口コミで、働く前からこの会社はこんなだとか、この業界はどうのと、口年増状態になっているだけなのです。


 会社や業界を情報として知ったつもりになっていても、実際には何の経験もしていないし、当然稼ぎもないわけですから、ほとんど意味のないバーチャル体験の総量が増えるばかりです。聞いているだけでも、意気は消沈、血圧が上がります。


 ところが最近、バーチャルとリアルのそうした固定観念を打ち破るような現象が起きていることを知りました。Second Lifeに代表されるようなネット上のバーチャル社会において、通貨が発行されたり(現実の貨幣と交換も可能だそうです)、土地を所有したり、またアバターと呼ばれる人格を作ってその社会で活動させたりと、文字通りもう一つの人生をそこで展開することが可能となっているというのです。


http://secondlife.com/world/jp/whatis/


 芸のない私などは、さしあたりネット上でもう一つの出版社を立ち上げ、リアル社会では実現できなかったベストセラーに挑戦するぐらいしか、思いつく人生などありませんが、時間と情熱を注ぎ込めば、バーチャル社会での成功をリアル社会に持ち帰ることも可能なのですから、ミクシィやオンラインゲームの域を超えた展開も予想されそうです。


 かつて雑誌が、そしてラジオ・テレビが生み出してきた「彼岸」の世界が、デジタル技術の進歩によって、とうとう此岸との境界をなくしてしまった、いやあの世をこちら側に引き寄せてしまったというべきなのかもしれません。ここに至れば、リアルとは何か、バーチャルとは何か、哲学的設問にもなるのでしょう。


 素朴に考えれば、たとえば芭蕉の『奥の細道』にしても、近松の「虚実皮膜論」にしても、リアルとバーチャルの境界を巧みに突いたものだったわけですし、言語とそれが指し示すモノとの関係だって突き詰めれば曖昧です。宗教などその境界の行き来を最大限に利用した、究極のセカンドライフ作戦と言えるのかもしれません。


 とはいっても、あまりにリアルに近似したバーチャルは存外つまらないものです。銀行のオンライン化でいつでもお金がやり取りできたとしても、あちら側にもこちら側にもお金がない、という現実は近松なら心中、小社なら夜逃げでもしなければデリートできないわけですから。


 さて、リアルの風響社主は今年も多くの繰り越しの仕事と「多少の」(これも微妙ですね)借金をかかえての出発となりました。多くの原稿との出会いは、たとえ倉庫に在庫の山という現実を残しても、同時に貴重な経験も残してくれています。当面はリタイアもせず現実世界に踏みとどまって目の前の原稿と格闘していきたいと思っております。


 もっとも、目の前とは言いましても、原稿の山はモニターの中にあるのですが。アバターはともかくうちのオバチャンの手でも借りたい新春です。


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<風響社通信 No.17> 2007年10月28日


 通信17号をお届けします。



1,新刊のご案内


 ◎『〈血縁〉の再構築 軽装再版』(吉原・鈴木・末成編、3000円)は1月上旬刊行しました。

 ◎『中国江南農村の神・鬼・祖先』(銭丹霞著、5000円)は1月下旬刊行しました。

 ◎『タイ山地一神教徒の民族誌』(片岡 樹著、6000円)は2月上旬刊行しました。

 ◎『バタックの宗教』(山本春樹著、5000円)は2月中旬刊行しました。

 ◎『近代客家社会の形成』(飯島典子著、5000円)は2月下旬刊行しました。

 ◎『ベトナムの少数民族定住政策史』(新江利彦著、8400円)は3月中旬刊行しました。

 ◎『モンゴルとイスラーム的中国』(楊海英著、3000円)は5月下旬刊行しました。

 ◎『呪術化するモダニティ』(瀬川昌久・西澤治彦編訳、3000円)は6月中旬刊行しました。

 ◎『東アジアの祭祀伝承と女性救済 目連救母と芸能の諸相』(野村伸一編著、7200円)は8月下旬刊行しました。

 ◎『韓国朝鮮の文化と社会 6号』(韓国・朝鮮文化研究会編、3500円)は10月上旬刊行しました。

 ◎『韓国サーカスの生活誌 移動の人類学への招待』(林史樹著、2500円)は10月上旬刊行しました。



2,新ブックレットシリーズ


 ◎松下国際財団によって1998年度から行われている、若手研究者へのアジア留学助成「松下アジアスカラシップ」事業の修了生は、その後もフォーラムを開催するなど活発な活動を続けております。

 

http://matsushita-kokusai-z.or.jp/mif.htm#asiajosei


 この度小社では財団の援助も得て、そうした活動の一環として、留学後の研究成果の一端を一人一冊のブックレットの形で刊行することとなりました。


 アジアの隣人とともに暮らし学んだ成果を、フレッシュな研究者の立場で「知の還元」という作業に乗せるもので、それぞれの地域・分野のフロンティアを示す意欲的なラインアップとなっています。


 胎中千鶴『植民地台湾を語るということ』、樫永真佐夫『東南アジア年代記の世界』、水口拓寿『風水思想を儒学する』、村上信明『清朝の蒙古旗人』、小林聡明『在日朝鮮人のメディア空間』、井上さゆり『ビルマ古典歌謡の旋律を求めて』、木村理子『モンゴルの仮面舞儀礼チャム』(A5・並製・50〜66頁、600〜800円)


 いずれも11月上旬に出荷となりますので、お楽しみに。



3,近刊予定のご案内


 ◎『近代日本の植民地博覧会』(山路勝彦著、3000円)

 ◎『文化の政治と生活の詩学 中国雲南省徳宏タイ族の日常的実践』(長谷千代子著、5000円)

 ◎『葬儀の植民地社会史 帝国日本と台湾の〈近代〉』(胎中千鶴著、4000円)

 ◎『中華民族多元一体構造論集』(費孝通編著/菊池秀明・曽士才・塚田誠之・西澤治彦・吉開将人共編訳、価格未定)

 ◎『蒙古源流 内モンゴル自治区オルドス市档案館所蔵の二種類の版本』(モンゴル学研究基礎資料2、楊海英編、価格未定)


 その他、遅れ気味のものも鋭意準備中です。

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 いずれも、詳細は小社ホームページをご覧下さい。

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【後記】

 暖冬の予感はあれど猛暑とは異なる風の心地よさだワン、とは社員犬タローの独り言ですが、暑さ寒さに適応できなくなってきた老社主も同じ気持ちです。


 さて、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、先日、日本を代表するドキュメンタリー映画監督の一人として活躍していた佐藤真氏が急逝されました。彼の夫人が社主の勤め人時代からの親しい仲間で、デビュー作「阿賀に生きる」以前の夫妻の「下積み」時代からずっと声援してきただけに、その早すぎる死を悼まずにはいられません。


http://www.cine.co.jp/list/satou.html


 うかつにも社主は学生のころ、本は読むもの、映画は観るものと思っていたぐらいのぼんやり者なのですが、たまたま出版界に迷い込みメディアの世界に目覚め、そして様々な場で古典的映像や新旧の実験的映像の洗礼を浴びるうち、映画作りに出版以上の魅力も感じたものでした。ただ、私自身には創作に向かう情熱も才能も乏しく、これまたひょんなことから出版社を立ち上げてしまうと、もう余計なことを考える時間もないまま、BS放送などでわずかに渇きを癒す歳月が流れていた矢先の訃報だったのです。


 最新作の「エドワード・サイード OUT OF PLACE」も見逃しているので、大きな口はたたけませんが、創作と批評の間を行き来するような彼の志向は、鏡を見ながら芝居をするようなもので、批評眼が己に向かう時に自分や作品に誠実であればあるほど、また被写体や観客に誠実であろうとすればするほど、その内面の居心地の悪さ、恐れおののきは尋常のものではなかったろうと思われます。


 佐藤氏とは勤め先のバレーボール部の練習で何度かパスを回し合ったことがあります。その頃はまだその長身がひょろっとしており、ぎこちないオーバーハンドからなぜか不思議に高く舞い上がるボールの軌跡に、生真面目で本質を考えぬく人となりをなんとはなく感じさせられたものでした。


 今も鮮明なそのボールの軌跡を脳裏に浮かべると、決してスマートにまとめられたとは言えないやや「武骨」ともいえる作品に込められた、彼の生き方・作り方にオーバーラップするものがあるようにも思えてきます。


 だいたい、ドキュメンタリー映画などというものは、制作に手間ひまばかりかかって、興行収入などとんと見込めぬものです。佐藤氏などもアルバイトやビデオ撮りなどで稼いだ金をつぎ込んで作品作りをしていたわけで、同じ映画といってもハリウッド映画などのビッグビジネスとは根本的に違うところです。


 弟が音楽家なので少しは内幕を知っているのですが、それは、音楽やアートの世界も同じで、一握りの売れ筋以外は皆、会場の手配から、身内・知人を総動員してのチケット販売、あらゆるコネを使っての宣伝までして、ようやく公演・公開が出来たとしても、結局自腹を切って採算を支えなければならないスタイルは共通します。


 このあたりは、文学や学術の事情も全く同じですし、そうした著者への貸座敷業のような業態の零細出版も似ているかもしれません。いやむしろ版元として資金を投入しながら、「器」を維持し続けなければならない分、資金繰りが厳しく立ちはだかる時もあります。それは、書店を賑わせている「地球温暖化推進商品」の版元たちの繁盛ぶりとはまったく別世界の様相を呈しているといってもいいほどです。


 おそらく佐藤氏もけっして多くはない支援者や関係者、そして家族の献身的な支えがあってこそ、良質の作品を生み出せたし、今日の評価を得るに至ったのだと思います。それは、初めからコマーシャリズムを目指さない音楽・アートそして出版などの苦闘組にも大きな希望を与える「評価」であり「成功」だったと思います。


 ただ、その一里塚的成功が彼の本意だったのかどうか。制作のみでなく、映像とその先にある「生」や「世界」を批評し止揚しようとした「哲学者」「ホモ・パティエンス」の内面は、せいぜい怠惰な「ホモ・ファーベル」たる私などの想像を超えるものがあり、晩年の軌跡をトレースすることは不可能と思われます。


 今はただ、ご冥福を祈り、残された家族の方々には多くの友人が見守っているよと心からのエールを送るのみです。


 さて、蛇足ながら最後に私事を。小社も平凡ながらわずかな軌跡は残してきたように思いますが、それを支え続けてくれた社主老妻が、この春定年を待たず大学を退職いたしました。健康不安もあって残りの人生を大事にしていきたいということなのですが、健康を害した原因の一つが「不況社」の経営難・資金繰りであったろうことを考えると、老社主ももう少し頑張らなければなりません。


 とりあえず、本業では安定した収入など当分は(ずっと?)叶わぬことと諦め、事務所に使っていた木造3階の1階部分を賃貸用に明け渡し、事務所は2階の小部屋に移すことにしました。やがて1階が稼いでくれるであろう家賃を老妻の収入にすることで、少しでも罪滅ぼしにしたいと思っているところです。


 佐藤氏の鮮烈な生き方にくらべ、なんと小市民的なことよ溜息も出ますが、これも一つの人生なのでしょう。社主らしく苦しい時は「寅さん」でも観て泣き笑い、鬱屈を晴らしたいと思っています。もう3回もシリーズ制覇しましたが、さてあと何回観ることになるのでしょうか。


 この半年は荷物の移動などで忙殺され、すっかりご迷惑をおかけしてしまいましたが、ようやく落ち着きを取り戻しつつありますので、残り少なくなった後半戦もどうかよろしくお願いいたします。


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